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東京地方裁判所 昭和42年(ワ)2975号 判決 1968年6月11日

原告 大東京信用組合

右訴訟代理人弁護士 河和松雄

同 松代隆

同 石井芳光

同 今野勝彦

被告 株式会社金剛ゴム工業所

右訴訟代理人弁護士 向山隆一

被告 芝興業株式会社

被告 前田秀雄

右被告両名訴訟代理人弁護士 林武雄

被告 東京自動車興業株式会社

右訴訟代理人弁護士 徳満春彦

主文

1  被告株式会社金剛ゴム工業所は、原告が別紙物件目録記載の土地および建物につき、東京法務局芝出張所昭和四〇年四月一〇日受付第五四八七号所有権移転仮登記にもとづき昭和四二年二月一六日代物弁済を原因とする所有権移転の本登記手続をすることを承諾せよ。

2  被告芝興業株式会社、同前田秀雄、同東京自動車興業株式会社は各自原告に対し、別紙物件目録記載の建物を明け渡せ。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

事実

<全部省略>

理由

一、<証拠省略>を総合すると、つぎの事実が認められる。すなわち、

1. 原告は、昭和四〇年三月三一日、訴外港運輸との間で、当座貸付、手形貸付、手形割引、証書貸付等の継続的取引契約を締結した。

2. 原告は、右同日、訴外東港不動産との間で、右取引に基づいて生ずる訴外港運輸の債務を担保するため、訴外東港不動産所有の本件土地および建物につき債権元本極度額二、〇〇〇万円の根抵当権を設定することを約し、かつ右取引契約より生ずる債務が履行されないときは、原告の任意選択するところにより、抵当権の実行に代え、原告が訴外東港不動産に意思表示をすることにより、原告が評価した本件土地および建物の価額と同額の債権の代物弁済として右土地および建物の所有権を取得することができる旨の代物弁済の予約をした。そして本件土地および建物につき、原告のため、東京法務局芝出張所昭和四〇年四月一〇日受付第五四八五号根抵当権設定登記、同出張所同日受付第五、四八七号所有権移転仮登記がそれぞれなされた。

3. 原告は、同年三月三一日、前記取引契約に基づき、訴外港運輸に対し、五〇〇〇万円を、同年四月から昭和四四年一〇月まで毎月末日に五〇万円ずつ返済し、残額を同年一一月末日に返済すること、利息を一〇〇円につき一日二銭五厘の割合とすること、損害金を一〇〇円につき一日五銭の割合とすること、訴外港運輸が右分割弁済の履行を怠ったとき、または、銀行取引停止処分を受けたときは、債務全額につき期限の利益を失うことの約束で現金五〇〇〇万円を交付して貸し付けた。

4. 訴外港運輸は、右貸付金のうち三〇〇万円を原告に返済したが、昭和四〇年九月一八日銀行取引停止処分を受けたので同日残債務全額四、七〇〇万円につき期限の利益を失った。

5. そこで、原告は、昭和四〇年一〇月一九日付翌二〇日到達の内容証明郵便をもって、訴外港運輸に対し、(1)原告の訴外港運輸に対する右貸付金残額四七〇〇万円のうち一、九五三万二、一六五円、(2)原告の訴外港運輸に対する昭和四〇年八月二〇日貸金五〇〇万円以上合計二、四五三万二、一五六円を自動債権とし、訴外港運輸の原告に対する(イ)定期預金二、〇一八万四、五〇〇円、(ロ)右定期預金利息九万〇、二八五円、(ハ)月掛貯金既掛込金一五〇万円(ニ)右月掛貯金利息二八〇一円、(ホ)別段貯金預り金一〇万八、七三〇円、(ヘ)出資解約払戻金二〇〇万円、(ト)右(1)の貸金の利息金五四万七、二九〇円、(チ)右(2)の貸金の利息金九万八、五五〇円、以上合計二四五三万二、一五六円を受働債権として、相殺の意思表示をした。

6. さらに、原告は、昭和四二年二月一六日到達の内容証明郵便をもって、訴外東港不動産に対し、本件土地および建物を六七五万六、二四三円と評価し原告の訴外港運輸に対する貸付金残額二、七四六万七、八三五円のうち六七五万六、二四三円の代物弁済として取得する旨の意思表示をした。

7. 本件土地および建物の右予約完結時における評価額は、なんら負担のない状態であれば四、六六二万七、〇〇〇円であるが、原告の前記根抵当権および代物弁済予約に基づく権利に優先して、抵当権および根抵当権が各設定されており、これらの被担保債権が合計三、九八七万〇、七五七円存在しているので、これを差し引いた価額は前記のとおり六七五万六二四三円となる。以上の事実が認められ、この認定を覆すにたる証拠はない。

右認定した事実を総合してみれば、原告と訴外東港不動産との間の根抵当権設定契約およびこれに併せてなされた右不動産の代物弁済の予約の実質はいわゆる帰属清算型の代物弁済予約に該当し、債権者たる原告の合理的評価額を基礎として清算しその所有権を原告に帰属させる合意がなされたものと解するのが相当である。そうして、右契約時における本件土地および建物の価額と、原告の貸金債権とが合理的均衡を失するとか、あるいは、原告のした評価額の決定が合理性を欠くものであるという事情も認められないから、清算の結果、本件土地および建物の所有権は原告に帰属したものといわなければならない。

二、被告金剛ゴムが、本件土地および建物につき、東京法務局芝出張所昭和四〇年一二月二二日受付第一九、七八五号をもって被担保債権額五〇〇万円の抵当権設定登記を有することは、原告と同被告との間に争いがなく、右抵当権設定登記が前記認定の原告の所有権移転仮登記より後順位のものであることは明らかである。

被告金剛ゴムは、本件土地および建物には、原告の右所有権移転仮登記に優先する抵当権が設定され、かつその登記が経由されているから、かかる場合、右最先順位の抵当権の換価権と同一の換価権を有する後順位抵当権者たる同被告に対し、原告は右仮登記の順位をもって対抗することができない旨主張するので判断する。

訴外同栄信用金庫が、訴外全国信用金庫連合会において訴外東港不動産から昭和三九年一二月五日に設定を受け、同月二二日に登記された抵当権(被担保債権額二、二五〇万円)を、右連合会から昭和四〇年一〇月二三日付債権譲渡を原因として、移転を受け、同月二五日移転の付記登記を経由していること、右抵当権が登記の順位において原告が本訴において主張している仮登記よりも優先していること、同栄信用金庫が本件土地および建物につき任意競売の申立をし、その事件が当裁判所昭和四二年(ケ)第四六号として目下係属中であることは、原告と被告金剛ゴムとの間に争いがない。

ところで、同一不動産について数個の抵当権が設定されているとき、後順位の抵当権者の申立によって抵当権が実行された場合であっても、競落当時存した抵当権はすべて消滅し、競落人は抵当権の負担のない不動産所有権を取得する(競売法二条一、二項)のであるから、その競落当時存した最先順位の抵当権の設定当時の権利状態で競売に付されるものというべく、従って、右最先順位の抵当権設定登記の後にその不動産について所有権移転請求権保全の仮登記を経由した者は、その権利をもって競落人に対抗することができないものであると解すべきである(同旨・最高裁判所昭和四一年三月一日第三小法廷判決、昭和四〇年(オ)第一〇八三号)こと、被告金剛ゴムの主張するとおりであるけれども、これは、わが国の競売法二条一、二項がいわゆる消滅主義をとる結果、競落の効果として、最先順位の抵当権設定登記に劣後する所有権移転請求権保全仮登記も消滅の対象に包含され、仮登記権利者は、たとえ後順位の抵当権者の申立によって、抵当権が実行された場合であっても、その権利をもって競落人に対抗することができないというにすぎないのであって、このことから直ちに、いまだ競落にもなっていない状態において、右仮登記権利者が本登記をなすに必要な要件を具備するに至った場合に、なお劣後する抵当権者に対抗し得ないと解することはできない。

なるほど、本件においては、最先順位の抵当権者である訴外同栄信用金庫が本件土地および建物につき抵当権実行の申立をなし、目下その手続が進行中であることは前記のとおり当事者間に争いがないけれども、いまだ右不動産が競落されたと認めることのできる証拠はないのみならず、原告は、右訴外金庫に対し滌除や代位弁済等の手続をとりうるものであり、また、原告が訴外東港不動産に対し本登記をなすに必要な要件を具備するに至ったこと前記認定したとおりである(なお、原告が訴外東港不動産に対する本件仮登記に基づく本登記手続請求訴訟事件につき当裁判所で請求認容の判決言渡を受け、該判決が確定したことは、当裁判所に顕著な事実である。)から、原告は右仮登記の順位保全の効力として、それより劣後する抵当権者である被告金剛ゴムに対し、本件土地および建物の所有権取得を対抗し得るものといわなければならない。よって、被告金剛ゴムの右主張は理由がない。

また、被告金剛ゴムは、原告の同被告に対する本訴請求が同被告の本件土地および建物の換価権を奪う結果となるから権利の濫用であると主張するけれども、先順位に所有権移転仮登記の存する不動産につき抵当権の設定を受けた者は、将来、先順位の仮登記権利者が本登記をなすに必要な要件を具備するに至ったときには、右仮登記権利者に対抗し得ない結果を招来することは容易に予想し得るところであって、かかる結果の発生するやも知れぬことを容認のうえ、抵当権の設定を受けたものとさえいえるから、原告の請求が認容されることにより結果的には被告金剛ゴムの換価権を奪うことになっても、特段の事情のない限り、これを目して権利の濫用ということはできない。その他、原告の本訴請求が権利の濫用であると認めることのできる証拠はない。よって、被告金剛ゴムの右主張は理由がない。

そうすると、被告金剛ゴムは、不動産登記法一〇五条一項、一四六条一項にいわゆる本登記につき登記上利害関係を有する第三者として、本登記をなすべき実体上の要件を具備した仮登記権利者たる原告が本登記手続を申請するにつき承諾の意思表示をなすべき義務を負うものといわなければならない。

三、<省略>。

四、(結論)よって、原告が、被告金剛ゴムに対し前記認定の承諾の意思表示を求める請求および、被告芝興業、同前田、同東京自動車に対し前記認定の明渡義務の履行を求める第一次請求は、すべて正当である<以下省略>。

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